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 芳弓さんは、入院から退院に至るまでのことは覚えていますか？ |
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| 芳弓 |
うーん……小さかったから、なんとなく。お見舞いに来てくれるのはすごくうれしかった。その頃は、本当のお父さん、お母さんだと思っていたし。
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| 義幸 |
芳弓は、私たちの顔がちょっとでも見えると、ぱっと顔色が明るくなったよな。
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| 紀久子 |
そうね。ベッドから出られるようになったら、入院病棟の自動ドアの前で待っててくれたりもしたわね。
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| 髙橋 |
退院することになってお父さんとお母さんが迎えに来てくれた時、芳弓はどんな気持ちだった？
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| 芳弓 |
「私にはこの人たちがいる」って思った。入院中は寂しかった。だから迎えに来てくれる人がいるっていうのがうれしかったです。
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| 紀久子 |
１歳半から５歳半までの４年間、病院の中でずっと一人で不安だったんでしょうね。退院してしばらくは、お父さんが外に出ると、冬でも裸足で追いかけていってたんです。離れたくないって。
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| 義幸 |
そんなこともあったな。
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| 髙橋 |
家にはすぐ慣れたのか？
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| 芳弓 |
うん。あんまりがんばったりはしてない。お母さんとケンカしても、すぐ仲直りできたよ。
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| 紀久子 |
退院したばかりの頃は叱ると「髙橋先生のところに帰る」って駄々をこねることもありましたけどね。でもそれも長く続かなかったですね。
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| 髙橋 |
それはきっと、「この人たちは自分の味方」ってことがわかってたからだよな。
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| 芳弓 |
うん。
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| 髙橋 |
芳弓は小さい頃から、自分を大事にしてくれる「味方」をちゃんと見つける力を持っていたもんな。コミュニケーション能力が生まれつきものすごく高いんだ。
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| 紀久子 |
初対面の人ともすぐ友達になっちゃうんです。ちゃんと周りを見ていて誰にでも優しいからでしょうね。人間関係を作っていくのが上手だと、親ながら思います。
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| 髙橋 |
本当にたいしたもんだ。芳弓の長期入院については院内でもいろんな意見があったけど、役職に就いているような、発言権のあるスタッフも芳弓は味方につけていた。病院に長く居続けるために、その能力はものすごいプラスだったんだよ。
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| 紀久子 |
髙橋先生や看護師さんたちには退院後も良くしていただきましたよ。退院祝いで花火をしていただいたり、誕生日を祝っていただいたり。夜勤明けだというのに、学校行事にわざわざ駆けつけてくれたこともありました。義務教育が終わるくらいまではしょっちゅう遊びに来ていたし、高校に入ってからも必ず年に一度は会いに来てくれていました。
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| 義幸 |
先生には特に、養子縁組の手続きをはじめ節目節目でサポートしてもらいましたね。
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| 髙橋 |
これも俺たちのやるべき仕事なんだよ。だって俺たちはお父さん、お母さんに芳弓を助けてもらったんだから、手島家をサポートする責任がある。障がいのある子は、成長過程でさまざまな困難にぶつかる。特に学校生活では、不必要に行動制限されたり、ひどいと「来ないでください」って言われることもざらにある。
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| 義幸 |
理不尽なことはずいぶん言われました。小学校の頃、学校にはお母さんが付き添って行っていた。芳弓の世話は全部していたのに、教育委員会から毎年、「手が掛かるので養護学校に行ってください」って電話がくる。
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| 紀久子 |
「あなたは芳弓の学校生活を見たことがあるんですか？」って言ったら、黙っちゃいましたけど（笑）
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髙橋 |
そういう困った状況が、俺たち医療スタッフの存在で打開できることも多い。俺たちがちょくちょく様子を見にいっていたのは、芳弓のために闘うご両親を支え、芳弓の可能性を広げるためでもあったんだ。
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| 義幸 |
そうだったんですね。おかげで、芳弓は私たちが思う以上の成長を見せてくれました。退院した当初は片言でしか話せなかった子が、高校時代は養護学校で生徒会長も務めたんです。こんなに達者に受け答えできるようになって、今じゃあ私がやり込められることもあるくらいで（笑）。先生にも看護師さんにも、心から感謝しています。
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| 芳弓 |
本当に、「ありがとう様様」です！（笑） |
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